『ちいさいモモちゃん』(講談社)
涼しくなったので、
夏の暑さで中断していた
部屋の片づけを再開しました。
寒さが来ると、またいろいろ
面倒くさくなっていしまうので、
この過ごしやすい時期のうちに
セッセと進めねば。
それにしても、
いろいろな物が発掘されています。
私は筋金いりのパラサイトシングルで、
実家に居座ったまま、引越経験なし。
めんどくさがりで、
物を捨てるのも苦手なので、
もう、あちこちに、
私の「過去」の断片が残っています。
衣更えの時期でもありますので、
まずは洋服から始めました。
毎年、ある程度は
入れ替えているつもりでも、
まだ、バブル期の残り香のある、
肩パッド入りの
ブラウスやジャケットが出てきます。
で、出てきちゃうと、
片づけの手を止めて、
ついつい袖を通してしまいます。
う~ん、ホントにこんな服着てたんだ。
我ながら、可笑しい。
流行は回るもので、
また似たようなテイストのものが
出回っているとは言いますが、
ビミョーに違いますね。
ついでに、
自分もそれなりに年をとって、
かつ、体形も髪形も雰囲気も変わり、
昔よく着たトラッド系などは、
一切すっかり似合わなくなりました。
よって、今年は、
捨てきれずに残っていたものを、
思い切りよく一掃。
よしよし、このペースでいこうと、
次は本棚へ移動。
ここにも、80~90年代の雑誌が。
ページをめくると、
ソバージュヘアに太い眉毛、
赤い口紅の今井美樹さんが、
白い歯を見せて笑っている広告写真。
今見ると正直ギョッとしますが、
当時は、これがしたくて
髪を伸ばしました。
ルージュの定番と言えばこれだった
シャネルの真っ赤な口紅も、
海外旅行土産でもらったものを
持ってたっけ。
いろいろ眺めて思い出に浸れば
また手が止まる。
極力ページは開かないよう努め、
古雑誌はまとめて紐をかけて、
資源ごみへ。
という作業を進めていたら、
もっと古いものが出てきちゃった。
子どもの頃によく読んだ本、
『ちいさいモモちゃん』
外箱はそれなりに痛んでいるし、
ページも隅の方から色が変わり、
古書としての風格あり。
ページの破れや、残る手垢に、
何度も何度も、繰り返し読んだ
形跡が見られます。
モモちゃんの誕生から三才までの、
成長過程のひとこまひとこまが、
ファンタジー童話の形で
綴られています。
例えばこんな感じです。
最初のエピソード、
「モモちゃんが うまれたとき」では、
ジャガイモとニンジンとタマネギが、
カレー粉を背負ってお祝いに来ます。
でも、ママさんに、モモちゃんはまだ
カレーが食べられない、
と言われて帰ります。
その先を少し読み進むとでてくる
「にげだした ニンジンさん」では、
その野菜たちが、
モモちゃんが一才を過ぎてから、
カレーをごちそうしようと
またやってきます。
でも、ニンジン嫌いのモモちゃんが、
「ニンジンちゃんはやだあ。」
と言ったものだから、
ニンジンがすねて駆けだして
いなくなって、
最後は、モモちゃん家の
飼い猫のプーが、
川に落ちて流されていたニンジンを、
好物の金魚と間違え救出して、
めでたしめでたし。
私のお気に入りの話は
「パンツのうた」。
冒頭の一節に、時代が感じられます。
「きょうは、モモちゃんちに、すてきなことがありました。モモちゃんちにね、でんわがついたんです。おもちゃじゃなくて、ほんとのでんわですよ。くろくって、ぴかぴかしています。」
この本の初版が出たのは昭和39年。
東京オリンピックの年ですが、
そのころは、家に電話が来ることが
事件だったんですね~
そして電話は黒かった。
わが家にもありましたっけ、黒電話。
この本、今でも復刻版やら文庫やらで
再版されているのですが、
こういうところ、このままで、
ちゃんといまの「若い読者」に
話が通じるんだろうか?
で、その日最初にかかってきた電話で、
ママさんはモモちゃんのパンツを
30枚作ることになるというのが
「パンツのうた」のメインの話。
何故かというと、
モモちゃんが一才になったので、
おむつを外さなくていはいけない、
でも、しばらくは
おもらしするだろうから、
替えのパンツがたくさん必要になる。
トレーニングパンツなどという
便利商品の無い時代、
おもらし対策は、
たくさんのパンツだったんですね。
それも、ママがミシンで縫って作る。
この話の楽しいところは、
とっても言葉のリズムがいいこと。
例えば、こんな感じ。
「そこでママは、白いきれを、パンツのかたちにきりぬいて、ミシンを、たったかたあとかけました。そうしたら、ちいちゃなちいちゃな、白いパンツが、十まいできました。」
それから、色がきれい。
ママはこの後、
水色の布とピンクの布で、
パンツを10枚ずつつくり、
次々かわりばんこにお洗濯します。
その場面では、
3色のパンツが旗のように、
物干しではためいている画像が、
目に浮かぶのです。
ページが一番汚れていたのは
この話なので、
たぶん、私は、子どものころから、
この話が一番好きだったんでしょうね。
大人の知恵が付いてから
子どもの本を読み返すと、
思わぬ「発見」があるものです。
例えば、先に話した、
ニンジンが逃げちゃう話。
オチは、結果的にニンジンを助けた
プーが、ご褒美にバターをもらう
というもの。
でも、モモちゃんのニンジン嫌いが
これで克服されたかどうか、
この日カレーを食べたかどうかは、
一言も書かれていなかった。
大人としては当然のように
期待しちゃう答えがそこにない。
プーの勘違いがご褒美につながる
というひねりは面白いですけどね。
モモちゃんは一才になると、
「あかちゃんのうち」というところに
通うようになります。
つまり、保育園ですね。
子どものころは特に気をとめたことの
ない点でしたが、
モモちゃんのお母さんは、
仕事を持っています。
時々、仕事が忙しくて、
モモちゃんのお迎えが
遅くなったりして、
怒ったモモちゃんは家出を試みたり
しちゃうんです。
今だと、「男女共同参画」とか、
「ワーク・ライフ・バランス」
という言葉が
ピッと連想される場面です。
そして、私にとってとっても
ショーゲキ的だったのは、
「かみちゃま かみちゃま」という、
三才のモモちゃんが神様に、
「はやく およめちゃんに
なれますように……」
とお願いする話があったこと。
話の前半では、ママがカーテン用に
買っておいたレースの生地を
引っ張り出して頭から被り、
お嫁さんごっこをする場面があります。
こんな本のこんなところに、
結婚願望の刷り込みがあったとは…
ある意味、児童書恐るべし。
なんて具合に、
見つけちゃった本を読み、
それについて考え始めたら、
また、片づけの手が
止まってしまいました。
ついでに、今でもこの本
売っているのかしらと疑問に思い、
インターネットで検索かけたらば、
連鎖反応的に、
このモモちゃんシリーズや
著者の松谷みよ子さんについてなど、
いろいろ読み始めちゃって、もう大変。
この調子だと、本棚の片づけは、
全くはかどりそうにありません。
Author: 吉原 公美
傾向がないという