2013年6月12日水曜日

読み散らかし書き散らかし 水無月



稲垣栄洋『キャベツにだって花が咲く―知られざる野菜の不思議』
(光文社新書)

冷蔵庫の野菜室の中の小さくなったキャベツの玉、ある日気がついたら、
てっぺんがパクッと割れて、花芽のようなものが顔をのぞかせていた。
 
おおっ、
 
冷蔵庫の中という逆境で成長しているとはタクマシイ。
この先どうなるのかと思い、外側に残った葉をペリペリ剥いて、
水栽培。


全体に白っぽかった色が、
いちにち日に当てただけで緑色がかってくる。



日々、徐々に全体がほどけてきて、緑が濃くなり、
花芽がすくっと立ち上がる。




開花。菜の花に似ていますね。




満開を過ぎて、花がポロポロ落ちるようになったところでやめましたが、
なんとも劇的でした。
キャベツの生命力と太陽のパワーの凄さに感心。
これに味をしめて、ニンジンのヘタの水栽培も開始。
オレンジ色の丸い台からチリチリっとした葉っぱが伸びてくる、
この姿が何ともカワイイ。




というようなことを、逐一フェイスブックに投稿していたら、
それを見た友人から、
 「ってそれ生ゴミ?」と言われ、いやまあ、そう言ってしまえばそう
ですが・・・
 
と語尾が小さくなったところで発見したのが、


◆稲垣栄洋著『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)。

プロローグに書かれていたエピソード。

大学時代の友人の部屋で、万年布団のかたわらに可憐な花が咲いていた。
何かと思ってゴミの山をかき分けてみると、出てきたのはハクサイ。
「ハクサイも生きているんだ」
妙に感動。
 
同感です。キャベツだって生きている。
 
野菜に関するトリビア満載のこの本によると、キャベツはアブラナ科。
菜の花も同じ仲間なので、似たような花が咲くのも道理。
そのほかにも、ハクサイ、ダイコン、カブ、チンゲンサイ、野沢菜なども
アブラナ科。
野菜としての味も形もそれぞれ違うのに、同じ姿の花が咲くとは面白い。
 
加えて、ブロッコリーやカリフラワーもアブラナ科の仲間ですが、
こちらは、つぼみの部分を野菜として食べています。
ブロッコリーを冷蔵庫の中で放ったらかしにしておくと黄色くなってきます
けど、あれは花が咲いたってことですね。
 
では、ニンジンは、というと、こちらはセリ科。
セリ科の仲間はセロリやパセリ。写真はパセリの花。

 

上手に育てれば、ニンジンのヘタもお皿の上で花まで咲かせるそうですが、
そうか、こんな地味ぃ~な花がゴールかぁ・・・。上手くいけばの話ですが。
 
キクの花はおひたしにして食べたりしますが、
野菜の中にもキク科のものがあるというのは驚きでした。
それも、ゴボウとレタスという、どう調理しても一緒に食べることのなさそうな
組み合わせが、共にキク科。
 
ただし、この場合は、同じ科に属しているといっても、花の姿は大分違います。
ゴボウの花は赤いアザミのような花。
根っこを食べないヨーロッパでは、花のほうが知られていて、
「しつこくせがむ」という花ことばもあるとか。
 
レタスの花は小さなタンポポで、ちゃんと綿毛も飛ばすそうです。
野菜についてはよく見知っているようでも、その花については、
見たことすらないものの方が多いですね。
 
トマトは家庭菜園の入門編ともいえる野菜ですので、
花を見たことのある方は多いのではないかと思います。
 
今年は、うちでもひと鉢育てています。この写真は我が家のトマト。



トマトの花の面白い特徴も紹介されています。たいてい、花にはおしべとめしべがあって、野菜や果樹の栽培では、
受粉の作業が不可欠です。
 
でも、トマトの花を観察しても、おしべもめしべも見つかりません。
花の真ん中の筒になったところは
実はおしべ。
めしべはこの中にあります。
 
花粉は筒の内側につくられていて、
風で花が揺れると、中のめしべに花粉が付く仕組みになっています。
 
これは、トマトの原産地である南米の高地の気候の特徴によるもので、
強風の吹く山地で、風によって花粉があらぬ方向に吹き飛ばされてしまうのを
防ぎ、その強風によって受粉が出来るように進化して出来上がった形。
 
でも、日本では風が吹かないビニールハウス栽培が主なので、
風が通らず花が揺れない。
そのため、わざわざビニールハウス内にマルハナバチを放し、
ハチが花を揺らす振動で受粉させるようにするのだとか。
 
うちの鉢植えトマトは物干しが定位置で上手い具合に風も吹きますので、
何もせずとも写真のように実が付きはじめました。
 
花についての引用が多くなりましたが、
そのほかにも、私たちが食べている野菜は植物のどこの部分なのか
なんて話も載ってます。
 
ジャガイモは地下茎、つまり茎で、サツマイモは根っこ、
なんてことを学校で勉強した記憶がありますが、
 
じゃあダイコンは?
 
大きな根、と書くくらいなので全部が根かと思ったらさにあらず。
料理の本で、ダイコンおろしに向いていると説明されている先っぽのところが根っこ。
サラダやおでんに使いましょうという太い胴の部分は胚軸というものなんだそうです。
 
どう見てもひとつながりの大きな根っこなんですけどね。
胴と先っぽの味の違いにそんな秘密があったとは。



 
お魚は切り身が海を泳いでいる、と思っている子どもがいると聞いたのは
もう何年も前ですが、
 
きれいにカットされてプラスティックのトレーに乗った切り身しか見たことなければ、
そう刷り込まれても無理もない話。
 
考えてみると、野菜もそうですね。
もともとどんな形で生えていたかなんて思いもよらないくらい、
泥を落とされ洗われて、大きさを揃えて形を整えられ、
ものによってはすぐに調理できるようにカットまでされて、
包装されて、商品としてスーパーの棚に並べられ。
消費財としての姿だけを見ていると、野菜だって生きている、
ってことを忘れちゃいそうです。
 
エピローグにこんな話がありました。
 
昔のキュウリの表面は、ブルームという白い粉のようなもので
覆われていました。
モモやブドウの果実の表面の白い粉と同じもので、
表面の細胞が変化して白く細かい毛になり、水をはじいたり病害虫を防ぐ役目がありました。
 
自然にできるものなのですが、
これは農薬ではないかと疑った消費者に嫌われるようになり、
この粉の出ないブルームレスキュウリが開発されました。
今出回っているのはほとんどがブルームレスキュウリ。
 
ところが、病害虫を防ぐ役目のブルームを取ってしまったので、
野菜は病気に弱くなり、かえって農薬をたくさん使わなくてはいけなく
なりました。
味にも影響しています。
 
ブルームレスキュウリはやわらかいので、
サラダにはいいかもしれませんが、
漬物にした時のパリッとした歯ごたえがなくなってしまいました。
 
こう聞いてしまうと、自らの持てる力を発揮してタクマシク育ったブルームあり
キュウリのほうがいいなあ、と思いますよね。
 
野菜をたくさん食べましょう、と日々言われていますが、
できることなら、生命力に満ちた、元気な野菜を食べたい。
 
そのためには、消費者である私たちが、
野菜をもっと知らなくちゃ
いけませんね。
 
最後に写真をもう一枚。
 
今回は、キャベツにいろいろ教わったという気がしましたので、
生ゴミから拾い出して新たに水栽培を始めたキャベツの芯と、
ここで紹介した『キャベツにだって花が咲く』を並べて記念撮影。






Author: 吉原 公美
傾向がないという読書傾向を自認する本の虫。